「過労死は自己管理責任」。2007年に人材派遣会社の奥谷禮子社長(当時)が発言し、国会で大問題となってから10年以上。また同様の発言が繰り返された。
「自殺だから一義的に自己責任なのは当たり前でしょうが。上司が屋上から物理的に突き落としたりしたのですか? そんなに追い込まれても、会社なんて辞めて生活保護受ければいいわけです。あなた達、弁護士は訴訟になったほうが儲かるけどね」(https://twitter.com/tabbata/status/1002900777000566784)
「過労死には本人の責任もある。なぜならば物理的な拘束はなく、使用者側に殺意もないから。使用者の過失責任はあるかもしれないが、本人の責任もゼロではないというのが私の見解です。36協定もない一方的な残業強制が違法ということは同意OKですよね?だとしたら組合や従業員代表の責任もゼロではない」(https://twitter.com/tabbata/status/1002909504340520961)
ZOZOTOWNを運営する株式会社スタートトゥデイのコミュニケーションデザイン室長、田端信太郎氏が6月2日、Twitterで「過労自殺は自己責任」という持説を展開、遺族とともに労災認定を得るために戦ってきた労働弁護士らと論争になった。ネット上では、過労死の遺族からも強い批判が巻き起こっている。
香山リカ氏もTwitterで「田端さんの発言は、弁護士だけではなく、私のような精神医療や福祉の関係者、自死対策に取り組む民間、行政の関係者、もちろんご遺族やその支援者にとっても許しがたいものと思います」と投稿。共産党の小池晃書記長も同様に「これは許せない発言ですね」と不快感を表した。
近年では、電通の新入社員だった高橋まつりさんが過労自死した事件が記憶に新しい。電通は労働基準法違反を問われ、東京簡裁は昨年10月、電通に有罪判決を言い渡している。しかし、なぜ過労死や過労自死の「自己責任論」は繰り返されるのか。労働問題に詳しい市橋耕太弁護士に聞いた。
●過労死自己責任論はもはや乗り越えられたはずの議論
まず、過労死や過労自死が認定される際、その責任はどのように考えられているのだろうか?
「例えば、長時間労働が原因で、脳や心臓の疾患により過労死した場合、あるいはうつ病を発症し自死してしまった場合(過労自死)に、会社は当該労働者の心身の健康を損なわないよう注意する義務に違反したとして損害賠償責任を負うことがあります。
このときに、『労働者が自分で働いたのだから労働者に責任がある』というのが田端氏の、そして未だに根強い自己責任論です。
しかし、労働者側の事情を理由に過失相殺(損害賠償額を減額すること)されるのは、特別な場合に限られるというのが確立した判例です。例えば、『真面目な人が真面目に働き過ぎてしまった』という場合には過失相殺することはできず、会社が100%の責任を負うことになります。この意味で、過労死や過労自死における自己責任論はもはや乗り越えられたはずの議論であるといえます」
●「会社の責任にしたくない」思惑、高プロで過労死が増える懸念も
「過労死自己責任」発言の奥谷氏は、第一次安倍政権下にあった労政審の委員で、一定条件を満たした社員を労働時間規制から外すホワイトカラーエグゼンプションの推進論者でもあった。雑誌上で「過労死が増える」という反対論に「過労死は自己責任」と発言して問題となり、この法案見送りの要因の一つとなった経緯がある。しかし、奥谷氏や田端氏のような発言は、繰り返される。その背景にはなにがあるのだろうか。
「こういった自己責任論が繰り返される背景に、『過労死を会社の責任にしたくない』という思惑が透けて見えます。ホワイトカラーエグゼンプションも、今問題になっている高プロ制度も、過労死が増える危険性が指摘されています。
いずれも、推進派によれば対象労働者が裁量をもって働けるかのように喧伝されているもの(実際は異なります)ですが、そのような労働者であれば『自分で働き過ぎたのだから死んでも自己責任だ』、つまり過労死が増えたとしてもそれは制度や会社のせいではない、と言いたいのでしょう。今回の田端氏の発言も、高プロの議論の中で出てきたもののようです。
しかし、高プロ制度で過労死が増える危険性を合理的に否定する根拠が示されたことはありません。再び過労死自己責任論を広めてまで通されようとしている点に、高プロ制度の危険性が浮かび上がってくるのではないでしょうか」
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