「COBOLプログラマーの皆さん、今がチャンスです」。米ニュージャージー州のマーフィー知事が記者会見でそう訴え、同州の求人に応募するようベテラン技術者に呼び掛けた。COBOLは1959年に開発されたプログラミング言語。「絶滅しかけたコンピュータ言語」(New York Times)とさえ呼ばれる。それが今、突如として脚光を浴びるようになった発端は、やはり新型コロナウイルスだった。
ITニュースサイトのOneZeroによると、ニュージャージー州はこれまで40年以上にわたり、COBOLで構築された失業保険金給付システムを使い続けてきた。そこへ新型コロナウイルスの流行が起き、自宅待機命令の影響で失業者が激増。失業保険金の受給申請が殺到し、システムがパンク状態に陥った。ところがこの問題に対応できるエンジニアはいなかった。
COBOLは今も金融機関や政府機関、自治体などのシステムで広く使われ続けている。しかし大学などでCOBOLを教える講座は激減し、COBOLが分かる現役のプログラマーは少なくなった。
問題に見舞われたのはニュージャージー州だけではない。New York Timesによると、隣のニューヨーク州でも、3月に失業者が一挙に増えて州労働局のWebサイトへのアクセスが殺到し、システムがダウンした。失業保険を申請しようとすると画面が何度もフリーズし、「Netscape」の使用を促すポップアップ表示が出ることもあったという(Netscapeは1990年代、MicrosoftのInternet Explorerに駆逐されるまで誰もが使っていたインターネット黎明期のWebブラウザ)。
申請サイトがどうしてもつながらず、FAXで申請書を送信するために、新型コロナ流行の中でわざわざ外出しなければならなかった人もいるとNew York Timesは伝えている。
ニューヨーク州の当局者は、この失業保険給付システムを「メインフレームコンピュータ全盛期の遺物」と形容する。問題は以前から指摘されており、州はシステムの近代化を図るプロジェクトを進めようとしていた矢先だった。
同様にコネティカットなど5州も共同で、レガシーシステムの刷新を目指すプロジェクトを展開していた。しかしプロジェクトの完了は来年までずれ込む見通し。やはりCOBOLで開発されたコネティカット州のシステムも失業給付の申請を処理しきれなくなり、州は引退したエンジニアの採用に踏み切っているという。
そうした事態を受け、メインフレームの主力だったIBMも支援に乗り出した。引退したベテランCOBOLプログラマーなどの人材を紹介するフォーラムや、経験豊富なCOBOLプログラマーが無料でアドバイスするフォーラムを立ち上げ、COBOLプログラミングを習得してもらうための無料トレーニングコースも創設すると発表した。
レガシーCOBOLシステムのメンテナンスやサポートを支援するため、経験豊富な熟年プログラマーが創設した「COBOL Cowboys」という新興企業もあり、COBOLへの関心は高まっている。
失業者の急増に伴い相次いで表面化した自治体のレガシーシステム問題。新型コロナの流行が長引けば、事態は今後さらに悪化する可能性もある。ニュージャージー州のマーフィー知事は、「新型コロナウイルスが過ぎ去ったら、一体全体なぜ、我々がCOBOLプログラマーを文字通り必要とするところまで来てしまったのか、検証する必要がある」とコメントしている。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2004/13/news054.html