AI(人工知能)が人間の知能を超える――
AIの概念が提唱されてから約70年を経た今、第3次AIブームが到来している。ちまたにはタイトルに「AI」という言葉を入れた書籍が溢れ、SF小説に出てきそうなAI脅威論が盛んに議論されている。
誤解だらけのAI
だが、AIは膨大な知識量と計算能力を持ったコンピュータでしかない。AIの産業活用を支援するメタデータの野村直之社長は、「『AIがいつ人間の能力を上回るか』という問いを立てること自体が無意味だ」と言う。「AI vs.人間」という対立の構造でとらえることは誤解でしかなく、AI脅威論に振り回されていると、企業活動にAIを効果的に取り込む機会を逃してしまうおそれがある。
そもそもAIの研究には、人間の脳そのものを模倣した機械を作る立場(強いAI)と、人間が行う作業の一部を機械に代替させようとする立場(弱いAI)の二つにわかれる。今、実用化が進んでいるのは後者で、人間が定めた特定の用途でAIに力を発揮させている。
AIは関係を覚え、記憶を引き出すといった決められた範囲の作業で力を発揮する一方で、決定的な弱点がある。主体性や意思を持たないことだ。そのため、人間が当たり前に行っている「なぜ?」という問いを持つことや、ふとした瞬間に何かの課題やテーマについて「ひらめく」ことはできない。実用化に当たっては、AIのこうした特徴を正しく認識し、「道具としてのAI」を効果的に利用することが重要になる。
週刊東洋経済5月7日発売号(5月12日号)は、「AI時代に勝つ子・負ける子」を特集。AIの得意・不得意を整理しながら21~22世紀を生き抜く子どもたちが習得すべき力についてまとめた。
現在のAIの実態を踏まえて将来に「消える仕事・残る仕事」についてさまざまな機関から予測が発表されている。野村総合研究所と英オックスフォード大学との共同研究では、日本の労働人口の49%が就いている職業は、10~20年後の社会ではAIやロボットなどに代替されることが技術的には可能になるとの調査結果を発表している。
残る可能性の高い仕事でも、AIやロボットの導入によって仕事の内容は大きく変化する。OECD(経済協力開発機構)が世界32カ国を分析した結果、32%の仕事では自動化によって仕事の内容が大きく変化するため、労働者の再教育が必要になるとの予測だ。
AIは人間の創造性豊かな活動に利用する道具として社会に組み込みながら、人間はAIが持たない力をより高めていくことが重要になる。あらゆる業界でいっそうのデジタル化が進み、求められる人材の質が大きく変化するこれからの時代、教育業界も変革への意識を強く持ち始めている。
「なぜ?」と問い、筋道を立てて説明する力が必要
長年、日本の教育政策に携わってきた文部科学大臣補佐官の鈴木寛氏は、「20世紀型の教育の延長線上では、AIの時代に大量の失業者を生む」と警鐘を鳴らす。また現代文講師の出口汪氏は、「記憶も計算もAIが担う時代、知識の習得だけに労力を割いてはいけない。『なぜ?』と問いながら、筋道を立てて説明する力が基礎学力となる」と言う。
そうした中で波紋を広げているのは、国立情報学研究所教授の新井紀子氏が、全国2万5000人を対象に実施した「基礎的読解力調査」の結果だ。たとえば、学力が中位の高校でも、半数以上が文章の内容を理解する読解の問題が解けなかった。
日本の子どもたちは、英単語や歴史の年号、数学の公式といった暗記すべき知識は豊富だが、文章を精読し、自分の考えを深められるだけの読む力はきちんと身に着けていないという実態が明らかになった。
今回の特集の中で新井氏は、読解力が人材育成の基礎になると強調し、「文や言葉の定義がきちんと理解できないと、新しい語彙を正確に獲得できないので、どんなに積み上げようとしても、積み上がっていかない」と語っている。
特集で子どもたちが習得すべき能力としてスポットを当てたのは以下の3つだ。
①読解力…教科書レベルの文章や説明書などの意味を正しく理解する力
②論理力…自分の考えや意思を相手に明確に伝え、説得や議論ができる力
③数学力…問題を設定し、試行錯誤しながら数字を使って分析的に解く力
いずれの力もAIが習得することが難しいものであり、子どもたちが幼少期から身に着けるべくトレーニングを積むことが望ましい力だ。AI時代に勝つ子、負ける子の境界線は、機械にはできない人間ならではの能力をつける基礎固めをどれだけ実践できるかで変わってくるのかもしれない。
https://toyokeizai.net/articles/-/219532
引用元: http://egg.5ch.net/test/read.cgi/bizplus/1525669861/