市場調査会社ストラテジー・アナリティクスの報告書によると、昨年のApple Watchの販売数は、すべてのスイス製腕時計の販売数よりも多かった。Apple Watchの販売数は3070万個で、前年の2250万個から36%増加。それに対し、スイス製腕時計全体の販売数は前年比13%減の2110万個ほどだった。
Apple Watchが発売された2015年、フランス高級品大手LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンの時計部門社長でタグ・ホイヤーの最高経営責任者(CEO)を務めるジャンクロード・ビバーは、スイスの時計業界はアップルの新商品を恐れていないと発言。その理由は、Apple Watchは1000年後、あるいは80年後に修理することができないし、子どもに受け継がれたり、地位の象徴となったりすることも決してない、というものだった。
ある業界で破壊が起きるときは常にそうだが、既存企業は脅威を認識できず、既に過去のものとなっている基準に基づき現状を分析しようとし続ける。
私は同年、腕時計分野での技術代替について議論しており、2017年5月には、スマートウオッチの売り上げが3年連続で伸びる一方、スイス製腕時計業界の輸出量が減少を続けていることを指摘し、前例のない危機が起きていると述べていた。スイス製腕時計はその地位を失って過去のものとなり、ファンは維持するものの、残余市場となる、と。当時述べたように、破壊が起きれば、伝統やスタイルといった実体がないものに頼る惰性を持ってして利益を確保することなどできない。
アップルが腕時計を再発明したことは、販売数の多さだけではなく、使用方法の多様さでも示されている。Apple Watchを手にした人の多くは最初、「これは時々使うことにして、今までのお気に入りの腕時計はこれからも使い続けよう」と思う。スイスの腕時計業界は、ファッションアクセサリー、あるいは収集価値があるものとしての腕時計のイメージを築いてきたのだから。時計愛好家の多くにとって、スイス腕時計はこれまで強力な地位の象徴だった。
しかし一度Apple Watchを試せば、それも変わる。これはただ時間を知るためだけのものではなく、通知の受信や運動量の測定、天気予報の確認、スポーツ試合の結果確認、さらには不整脈の検知などができると分かるのだ。Apple Watchを使い始めるとすぐに、自分の腕時計コレクションが今後は引き出しに眠ることになると気付く。
ある日、腕時計を引っ張り出してApple Watchの代わりに使ってみようと思っても、1日のうちに何度も、そこにはない情報を求めて腕時計を見やる自分に気づく。精巧な技術が使われ、地位の象徴だった腕時計は、もはや時代遅れになったのだ。これがあなたの身にまだ起きていなかったとしても、心配はご無用、それは時間の問題だ。Apple Watchは完全に別種の製品、デジタル環境に合わせた腕時計の再発明なのだ。
今後Apple Watchの使用者が増える一方で、優越感を振りまきながらスイス製高級腕時計を見せびらかす古い人間も存在し続けるだろう。とはいえこうした人も、縮小を続ける市場の唯一の構成員になる。一方、今後の次世代スマートウオッチは、健康管理などの魅力的な機能の追加や、旧モデルが抱えていた問題の克服により、より多くの顧客を獲得するはずだ。
それがいまだに信じられない人、この販売統計が一時的な変動でしかないと思う人、あるいはスイスの腕時計業界がアルプスの地下壕(ごう)で巻き返しを狙っているに違いないと思い待っている人は、心配無用。そんな日々もいずれは終わり、待ちくたびれてしまうだろう。
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引用元: http://egg.5ch.net/test/read.cgi/bizplus/1582457568/